執筆:笹内謙一(PEO技術士事務所) 監修:香月正司(大阪大学名誉教授)
シリーズ「バイオマスガス化とタールの科学」(全6回)
- その1 ガス化炉の中で何が起きているか ― タールはなぜ生まれるのか
- その2 タールを分類する ― 一次・二次・三次タールと露点
- その3 タールとどう付き合うか ― 炉の中で分解するか、炉の外で取り除くか
- その4 タールを測る ― ガスのどこで何を測れば炉の状態が分かるのか
- その5 タールが着いた先 ― エンジンの中で何が起きているか(本記事)
※ その6は順次公開予定です。
はじめに ― エンジンは、上流の「やり残し」を受け取ります
前回は、タール対策が効いているかどうかは測ってみなければ分からないこと、そして測る場所の基本は、ガス化設備からエンジン設備へ燃料ガスを受け渡す位置であることをお話ししました。第2回から前回までの話は、突き詰めれば、いずれも「エンジンを守るため」のものでした。今回は、その守るべきエンジンの側に視点を移します。
ガス化によるコージェネレーション(CHP、熱電併給)設備では、エンジンはガスの通り道のいちばん最後に置かれています。炉の中で分解しきれず、除去装置でも取りきれなかったタールは、最後にはエンジンに届きます。微量でも長く運転すれば機器に堆積していくので、エンジンにとって最大の敵はタールである、とさえいわれます。エンジンそのものは成熟した機械ですが、ガス化設備に組み込まれると、設計のときに想定していなかった燃料を受け取ることになるのです。今回は、届いたタールがエンジンの中で何を引き起こすのかを、ガスの通り道に沿って追いかけます。
CHP設備の中のエンジン ― 燃料ガスの通り道
ガス化CHP設備を、燃料ガスの流れに沿って見てみましょう(図1)。ガス化炉を出たガスは、除去装置でタールと微粒子を落とされ、受け渡し部からエンジン設備に入ります。そこで燃料調整弁で量を調整されてからミキサー(混合器)に入り、エアフィルターを通ってきた空気と混ぜられます。過給機(ターボチャージャー)のある機種では、この混合気が圧縮され、インタークーラーで冷やされ、スロットル弁で量を加減されてから、吸気管を通って各シリンダに入り、圧縮されたのち点火プラグの火花で点火されます。

CHP設備のエンジンは、燃料の通り道だけでつながっているわけではありません。エンジン冷却水と排気からは熱を回収して温水や暖房などとして使い、内部には潤滑油が巡っています。タール発生の影響は、潤滑油や保守の計画、さらには熱と電気の供給比率にまで及びます。
第2回でお話ししたとおり、天然ガスやガソリン、軽油を使う従来のエンジンでは、正常運転時の吸気系内壁が燃料で濡れることはほぼありません。ところがガス化ガスは、燃料の一部であるタール蒸気が吸気系の中で凝縮しうる、エンジンにとって前例のない燃料なのです。
エンジンが正常に回るための三つの条件
ここで、エンジンの側から見た「正常な運転」を確かめておきます。エンジンが正常に動いているということは、出力軸が滑らかに回り、燃焼室の中で正常な燃焼が繰り返されているということです。そのためには、清浄な混合気(空気と燃料ガス)、十分な圧縮、強力な火花点火の三つがそろっている必要があります。異常が発生してエンジンが止まったときは、この三つのどこに問題があったのかを探すことになります。
このうち火花点火は、点火プラグの消耗や点火時期の確認といった通常の点検項目で、止まったエンジンでも容易に調べられます。燃焼用の空気の清浄度も、フィルターの汚れと通気抵抗を調べれば十分で、燃料が天然ガスなら燃料の側も同じような点検で足ります。ところがガス化ガスは、組成が一定でないうえに厄介なタールを含むので、通常のフィルター点検だけでは不十分なのです。しかもタールに対応するエンジン点検の決まった手順も、広く認められた許容値もありません。タールの存在は、まず清浄な混合気の形成を損ない、やがて十分な圧縮まで奪っていきます。
給気系にたまる ― 清浄な混合気が損なわれる
ガス化ガスを燃料とするエンジンを分解して、まず見つかることが多いのが、給気系へのタールの付着です。燃料調整弁、ミキサー、過給機、インタークーラー、スロットル弁、吸気管といった機器の内面に、タールがべったりと付着します(第2回の写真1)。過給機への堆積が最も多いトラブルだといわれます。過給機のない機種でも燃料調整弁やミキサー、スロットル弁は残りますから、トラブルの発生場所がなくなるわけではありません。
付着したタールは流路を狭めます。給気系が詰まってくると、混合気の流量が少なくなると同時に、空気と燃料ガスの混ざる割合(空燃比)がずれて混合気が燃料過多(過濃)に傾き、目指した清浄な混合気が損なわれてしまいます。
過給と冷却が重なる場所
給気系の中でも、過給機からインタークーラーにかけては特に注意の要る場所です。第2回でお話ししたとおり、ガスを加圧すると露点が上がります。空気と混ぜた時点でタールはいったん薄まりますが、過給機で圧縮されると露点は再び上がります。その混合気を、密度を高めてシリンダにより多く詰め込むために、インタークーラーで冷やします。露点の上がったガスを冷やすのですから、ここはタールが凝縮しやすい条件がそろう場所です(図2)。過給はエンジン出力を上げる手段ですが、タールにとっては凝縮を増やす方向に働くのです。

ここで、第2回でお話しした設計の基本、つまりガスの通り道の「最低温度の場所」を除去装置の側に置いてタールを落としておく、という考え方を思い出してください。ただし、受け渡し部で測った露点はその場所の圧力での値で、過給機の中では、圧力が上がったぶん露点も上がっています。露点を比べるポイントとしては、圧力が高いうえに冷やされる場所、つまりインタークーラーの出口のような所も入れる必要があるのです。
より大きな出力が必要なとき、過給で出力を稼ぐのではなく、過給しないで排気量の大きなエンジンを採用する、という考え方もあります。どちらを選ぶかは、エンジン単体の性能だけでは決められません。上流のガス化設備がどれだけきれいなガスを安定して渡せるかによって、答えは変わります。ここに、CHP設備の一部としてエンジンを選ぶ難しさがあります。
弁とピストンのまわりで起きること ― 十分な圧縮が失われる
給気系で止まりきらなかったタールは、混合気とともにシリンダの中に運ばれます。給気系で凝縮したタールの細かい霧(ミスト)や、壁を伝って流れ込んだ液状のタールです。まず吸気弁の裏側に堆積し、燃焼室からの熱を受けて次第に炭化・固化していきます。燃焼室に入ったタールの一部は燃えますが、燃え残りは炭化物となって、吸排気弁や点火プラグのまわり、さらにはピストンとシリンダの隙間にたまります(図3)。燃焼室に入ったタール蒸気が、水冷されて温度の上がりにくいシリンダの壁面で凝縮し、ピストンとシリンダの隙間に堆積物をつくることもあると考えられます。

これらの炭化・堆積物が十分な圧縮を奪います。圧縮が保たれるのは燃焼室から混合気が漏れないからで、とくに大事なのは、吸排気弁が閉じたときに弁座(バルブシート)の真ん中にきちんと着座することです。堆積物や腐食によって弁座の偏った摩耗が進むと、弁が沈み込み、弁の軸を支えるバルブガイドも偏って摩耗し、弁まわりからの圧縮漏れにつながります。ピストンとシリンダの隙間に挟まった固い炭化物は、シリンダの壁をひっかいて摩耗させます。シリンダの摩耗が進めば、圧縮圧力が上がらなくなり、潤滑油の消費が増え、ときにはピストンの焼き付きを起こします。
厄介なのは、こうした損傷が外からは見えにくいことです。問題が発生したエンジンの圧縮圧力が測定できたとしても、正常運転時の圧縮圧力データがなければ比較診断ができません。弁と弁座の当たり、バルブガイドの偏りや摩耗、シリンダ内面の摩耗を確かめるには、エンジンを全分解して精密に測る必要があります。
ここで注意したいのは、堆積物のすべてが燃料ガス中のタールに由来するとは限らないことです。弁の軸(バルブステム)を伝って降りてくる潤滑油、クランクケースからシリンダへ撥ね上げた潤滑油に由来するものも混ざります(図3)。前回お話ししたとおり、付着物を分析するときは、燃料ガスと潤滑油の両方を同時に調べておくことが大切です。
異常燃焼 ― 確かめられることと、確かめにくいこと
堆積物は、エンジンの燃え方そのものを乱すこともあります。異常燃焼と呼ばれる現象を、言葉で簡単に整理しておきます。
正常な燃焼では、点火プラグの火花で火が点き、炎が混合気の中を広がって燃焼室の隅まで燃え進みます。これに対して、炎が届く前に、燃焼室の端に残った未燃の混合気が高温・高圧に耐えきれずに自ら発火してしまうのがノッキングです。ノッキングが起きると燃焼室の中に速く細かい圧力の振動が生じ、壁面に接する薄いガスの層(温度境界層)が壊されて、壁への熱の伝わり方が急に大きくなります。その結果、弁や点火プラグ、ピストンが過熱し、傷みます。
燃焼室が過熱した状態では、堆積したスラッジや、潤滑油の飛沫、潤滑油に含まれる添加剤の金属微粒子などが赤熱し、点火の火花より先に混合気に火を点けてしまうことがあります。これが過早着火(プレイグニッション)です。本来より早く燃え始めるぶん圧力が高くなりすぎ、激しい異常燃焼につながることがあります。
シリンダ外で起こるもうひとつの異常燃焼の起こり方が指摘されています。「逆火」(バックファイア)です。排気行程の終わりには、吸気弁と排気弁が同時に開いているわずかな時間(バルブオーバーラップ)があります(図3の小図)。このとき、燃焼室に残った高温のガスや赤熱した堆積物が、入って来ようとする混合気に火を点け、給気管へ向かって火が伝播すると考えられます。排気行程終盤のガス温度が高いと逆火が起こりやすく、バルブオーバーラップの期間が長いほど起こりやすくなります。過給圧と弁の開閉時期の組み合わせが適切でない場合にも、起こりうるとされます。
ここまでは、エンジン燃焼の教科書で説明されている仕組みです。ところが、これを実際のガス化CHP設備のエンジントラブルに当てはめようとすると、とたんに難しくなります(表1)。
表1 エンジンの異常 ― 確かめられることと、確かめにくいこと
| 現象 | 確かめられること | 確かめにくいこと |
|---|---|---|
| 給気系へのタールの付着 | 分解点検で直接見られる。付着物の成分も分析できる | いつから、どの運転条件で付き始めたか(運転データの詳細な記録がないと追えない) |
| 燃焼室・弁まわりの堆積物 | 分解点検や内視鏡で見られる | 燃料ガスに由来するのか、潤滑油に由来するのか(両方を分析しないと分からない) |
| 弁・弁座・シリンダの摩耗 | エンジンを全分解して精密に測れば分かる | 運転中には分からない。摩耗の原因が堆積物なのか、腐食なのか、ノッキングによる過熱なのかの切り分け |
| ノッキング | シリンダ内の圧力を測れば、運転中でも確認できる | 簡易型のノックセンサーでは発生の回数が分かる程度で、どのシリンダでどれほど強く起きたかまでは分からないことが多い |
| 過早着火 | 赤熱した堆積物などが火種になりうるという仕組みは知られている | 実際に起きたかどうかは、シリンダ内の圧力を測っていなければ判断できない。堆積物があれば必ず起きるわけでもない |
| 逆火 | 大きな音とともにエンジンが止まる、部品が壊れる、といった結果は見える | 現象の再現性が乏しく、給気系への逆火なのか、燃焼室の中の激しい異常燃焼なのか、区別がつかないことがある |
※ 筆者の整理によるものです。
異常燃焼は、正常な運転状態から外れたときに起きる現象です。系統立てたデータの蓄積が乏しく、知見の多くは、現場の技術者が経験として積み上げてきたものにとどまっています。確かな出典や数値に基づいて語れることは、多くありません。そのことを承知のうえで、次の三つを押さえておきたいと思います。
原因をタールだけに帰さない 赤熱して異常燃焼の火種になりうるのは、燃料ガスに由来するスラッジだけではありません。潤滑油由来の炭化物やその添加剤の微粒子もあります。また、堆積物があれば必ず過早着火が起こるわけでもありません。その前にノッキングが繰り返されて燃焼室が過熱している、という条件が重なったときに、時として起こる現象と考えられています。
エンジンの設定と燃料の組み合わせ ノッキングの起こりやすさは、エンジンの圧縮比や過給圧、点火時期と、燃料のノッキングの起こりにくさ(ガソリンに対してはオクタン価、ガス燃料ではメタン価という指標が使われます)の組み合わせで決まります。ところが、ガス化ガスの組成は燃料や炉の運転条件で変わり、ほかの燃料用のエンジンを転用した場合に、もとの燃料に合わせた圧縮比や過給圧が新しい燃料に合う保証はありません。メタン価という指標にも注意が要ります。メタン価は、ノッキングを起こしにくいメタンと起こしやすい水素を混ぜてつくった「ものさし」で、天然ガスエンジンでは長く使われてきましたが、水素エンジンの研究が始まって、いろいろな課題が見えてきたといわれます。水素を含むガス化ガスに、このものさしをそのまま当てはめてよいとは限りません。運転中に変えられるのは実質的に点火時期くらいで、遅らせると排気行程終盤のガス温度が上昇し、熱効率が下がります。このガス温度の上昇は逆火を起こりやすくするので、ノッキングを避けるために点火時期を遅らせることは、逆火に対しては逆効果になります。しかも燃え方は毎回少しずつ違う(サイクル変動)ので、点火時期を限界の近くに設定するほど、ときどき限界を越えるサイクルが出てきます。
「逆火」の中身を確かめる 現場で一口に「逆火(バックファイア)」と呼ばれる出来事には、大きな音とともにエンジンが止まるに至ったいろいろな事象が含まれていることがあります。それが給気系への逆火なのか、燃焼室の中の激しい異常燃焼なのか、ほんとうのことは給気管とシリンダ内の圧力を測らなければ区別できません。原因を決めつける前に、何が起きているかを確かめることです。
CHP設備としての損失 ― 潤滑油と保守
タールの影響は、目に見えるトラブルだけではありません。ガス化CHPのエンジンでは、天然ガスを燃料とするガスエンジンに比べて、潤滑油の交換間隔を大幅に短く求められる例が多くあります。交換のたびに運転を止め、新しい油を買い、廃油を処理しますから、運転費に直接響きます。
ただし、この差がどこまでタールのせいなのかは確かめられていません。潤滑油の寿命は添加剤の酸化の程度で決まるともいわれ、燃料ガスの汚れを見込んで余裕を大きくとった交換間隔が推奨されている可能性もあります。一方、木ガスでトラクターを動かしていた時代の比較試験では、ガスの洗浄を布製のフィルターを使う方式に改めると、シリンダの摩耗と潤滑油の汚れが大きく減ったと報告されています(主に除かれたのは微粒子)。どこまで延ばせるかは、自分の設備で潤滑油を分析しながら確かめていくほかありません。
CHP設備では、エンジンが止まれば、電気だけでなく熱の供給も止まります。全分解を伴う修理や、弁やシリンダヘッドの交換を短い間隔で繰り返すことになれば、そのたびに熱の利用先にも影響が出ます。エンジンの不調は、エンジンだけの問題ではなく、設備全体の稼働率と事業性の問題なのです。
おわりに ― 次回へ
今回は、エンジンに届いたタールが何を引き起こすのかを、エンジンが正常に回るための三つの条件に沿って追いました。タールは給気系に付着して清浄な混合気を損ない、過給機からインタークーラーにかけては凝縮しやすくなります。燃焼室に運ばれたタールは弁やピストンのまわりに炭化物として堆積し、弁座やシリンダをすり減らして十分な圧縮を奪います。異常燃焼の火種にもなりえますが、異常燃焼はタールだけで起きるものでもありません。
エンジンを守る手立ては、結局、上流側にあります。除去装置を出たガスの露点を、その先の通り道のどこにおいても、その場の温度より確実に低く保つこと。過給するエンジンでは、圧力で上がった露点を、インタークーラーの出口の温度と比べることを忘れないこと。そして、トラブルが起きたときには、エンジンだけを、あるいはタールだけを疑うのではなく、受け渡し部で測った数字をもとに原因を切り分けること。これが今回の要点です。
次回はシリーズの最終回として、「ガス化炉とエンジンは、なぜ相性が悪いのか」をテーマに、流量や組成が変動するガス化炉と、精度の高い制御を求めるエンジンの間に何が要るのかを考えます。これまでの回で何度か登場した「容量の大きいタンク」の役目も、そこで明らかにします。
参考文献
- FAO, “Wood gas as engine fuel”, FAO Forestry Paper 72, Food and Agriculture Organization of the United Nations, Rome (1986)
- Heywood, J. B., “Internal Combustion Engine Fundamentals”, 2nd ed., McGraw-Hill Education (2018)
- 飯島晃良・吉田幸司『基礎から学ぶ 内燃機関』森北出版 (2022)
- 香月正司 作成の説明資料 (2022)。筆者のセミナー資料「小型バイオマスガス化CHPのトラブル要因とその対策」(2025) にも収録(図3に示した場所と現象の出典)
監修者プロフィール
香月正司 大阪大学名誉教授(燃焼工学)。燃焼・熱工学の研究者として大阪大学で長く教鞭をとり、現在はバイオマスのガス化・燃焼やガスエンジンの実務課題についてPEO技術士事務所に助言している。本シリーズの監修を担当。
ガス化発電設備のタールトラブルや、設計・運転上の課題について、設備を販売しない第三者の立場からの助言が必要な場合は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。技術士法第45条により、いただいた情報は秘密保持契約の有無にかかわらず保護されます。

