執筆:笹内謙一(PEO技術士事務所) 監修:香月正司(大阪大学名誉教授)
はじめに ― タールは「量」だけでは語れません
前回は、木を加熱すれば必ずタール蒸気が生まれ、それが炉の中で分解されるかどうかは通り道の温度と環境で決まることをお話ししました。今回は「どんなタールが出てくるのか」を考えます。タールは何百種類もの物質の混合物で、その顔ぶれは生まれた温度で大きく変わります。そして設備を詰まらせるかどうかを決めるのは、総量よりも「重い成分」です。この考え方をつかむ道具が、タールの分類と「露点」です。
温度がタールの顔を変えます ― 一次・二次・三次タール
タールは、生まれる温度によって一次、二次、三次の三つに分けて考えるのが一般的です(図1)。

一次タールは、木の主成分が分解し始める400〜500℃前後で生まれるものです。酢酸のような酸、糖の仲間、フルフラール、カテコールやメトキシフェノール類など、酸素を多く含む化合物が中心です。薪の煙が目にしみるのは、主にこの一次タールの仕業です。酸素を含むため水に溶けやすく、分解もされやすい「生まれたてのタール」です。
二次タールは、一次タールが500〜700℃程度でさらに変化したもので、フェノール類やオレフィン類が中心になります。
三次タールは、700℃を超える高温で生まれます。ベンゼン環一つの芳香族から始まり、温度が上がるにつれてナフタレン、フェナントレン、ピレンといった多環芳香族炭化水素(PAH)へと、環を増やしながら重くなっていきます。
タールが生まれる根本の理由は、木そのものが炭素だけでなく水素と酸素を含んでいることにあります。だからこそ、酸素を含む一次タールから始まり、高温で酸素を失って炭化水素、多環芳香族、そして炭へと姿を変えていくのです。ここで大事なことが二つあります。ひとつは、温度が上がるほどタールの総量(質量)は減るのに、残ったタールは重く、分解しにくいものに変わっていくことです。もうひとつは、一次タールと三次タールは炉の中で、ひとつところに共存しないことです。出てきたタールの顔ぶれを見れば、そのガスがどんな温度域を通ってきたかが分かります。
これに関連して、生成ガス中のメタン(CH4)が多いときは、タールも多い傾向があることが分かっています。どちらも熱分解が進みきっていないしるしだからです。このため、メタンをガス化炉の安定運転の目安としている例があります。例えばメタン濃度が2%以下ならOK、4%以上で運転停止という指標として用いている現場があります。
前回の固定床炉でいえば、アップドラフト型のタールは、量が多いものの低温の上部を通ってきた一次タールが主体であり、ダウンドラフト型のタールは、量こそ大幅に少ないものの、高温の酸化層をくぐり抜けた三次タールが主体です。量が少なければ安心、とは言えないのはこのためです。
露点とは何か ― 冷えたコップの水滴
冷たい飲み物を入れたコップに水滴がつくのは、空気中の水蒸気が冷やされて液体に戻るからです。水滴がつき始める温度が露点です。
タールも同じで、気体の温度がある温度を下回ると、含まれているタール蒸気が液体になって壁面に付き始めます。この温度がタール露点です。タール露点はタールの種類と濃度で決まり、冷却器、配管、フィルター、エンジンの吸気系など、通り道のどこかの温度が露点を下回れば、そこにタールが凝縮します。
ここでエンジンの燃料について考えてみましょう。天然ガスはもともと気体で、吸気管の中で液体にならず、ガソリンは吸気管内ですぐに蒸発して気体に、ディーゼル燃料は燃焼室に直接噴かれるので吸気管を通りません。従来のエンジンでは、吸気管の内壁が燃料で濡れることはほぼないのです。ところが木質ガス化ガスを燃料とすると、燃料の一部であるタールが吸気管の中で凝縮しうるという、エンジンにとって前例のない厄介な燃料なのです。凝縮したタールは吸気管やミキサー、過給機に粘着して流路を狭めていきます(写真1)。

露点を決めるのは「重いタール」です
純粋な物質なら露点は蒸気圧の表から読めますが、何百種類もの混合物であるタールの露点を計算で求めるのは容易ではありません。そこで役に立つのが、タールを分子の大きさと性質で五つのクラスに分ける考え方です(図2)。クラス1は分析装置でも捉えきれないほど重いタール、クラス2はフェノール類など水に溶けやすいタール、クラス3はトルエンなどベンゼン環一つの軽い芳香族、クラス4はナフタレンなど環が二〜三つの軽いPAH(多環芳香族)、クラス5はピレンなど環が四つ以上の重いPAHです。小型ダウンドラフト炉のタール分析では、フェノール(クラス2)とナフタレン(クラス4)が最も多いという報告があります。

この分類が教えてくれるのは、クラスによって露点の変化の仕方がまるで違うということです。クラス3のタールの場合、その濃度が1万mg/Nm³(標準状態のガス1m³あたり1万ミリグラム)あっても凝縮は起こりません。クラス2では1,000mg/Nm³あっても露点は100℃に届きません。ところがクラス5では、わずか0.1mg/Nm³のタール濃度で露点が120℃前後に達します。つまり、タール露点を決めているのはタールの総量ではなく、ほんの微量の重いタールなのです。分子が大きく重いタールほど、蒸気のままでいられる量(飽和蒸気圧)が小さく、ごくわずかな量でも液体に戻ってしまうからです。
クラス2の水に溶けやすいタールはスクラバーの水に溶けて廃水の負担になり、クラス4・5の重いPAHは水に溶けにくく、冷却器やフィルター、吸気系に固着します。
「エンジンに問題のないタール分」という言い方を耳にすることがあります。ナフタレンより沸点の低い軽いタールは、燃焼室に入って燃えてもすすをあまり出さない、という経験則に基づく言葉です。しかし、これは燃焼室内の燃焼反応の話であって、吸気系の話ではありません。軽いタールであっても、吸気系の温度がその露点を下回れば凝縮し、粘着してトラブルを起こします。「燃焼室内で燃えるか」と「吸気系で凝縮するか」は別の問題であり、後者を判断する物差しが露点なのです。
現場で露点をどう使うか
正常運転中のエンジンに入る燃料ガスの温度は、40℃以下といった低温が求められていますから、実際の「燃料ガスの通り道の最低温度」が現れる位置は、エンジンの手前のどこかにあるはずです。そこで、その最低温度位置で燃料ガス中のタールが凝縮しないことが最重要になります(図3)。エンジンメーカーが求める「タールなし」を露点の言葉で言い換えれば、「通り道の最低温度より露点が低いこと」です。ガス品質の目安として、タール50〜100mg/Nm³以下、微粒子5〜10mg/Nm³以下といった数値がよく引用されますが、重いタールが残っていれば、品質(濃度)の目安を満たしていても、露点温度が下がるとは限りません。

温度だけでなく、圧力も露点を動かします。過給機で吸気を加圧すると、ガス全体が押し縮められ、同じ体積の中に含みうるタール蒸気の量が増えます。蒸気のまま存在できるタールの量には温度ごとに上限(飽和蒸気圧)がありますから、加圧されたガスはより高い温度でその上限に達するようになり、露点が上がります。その結果、常圧では気体のままだったタールが凝縮しやすくなります。シリンダ内では凝縮したタールはスラッジになり、弁や点火プラグの周りに堆積して赤熱し、早期着火や逆火(バックファイア)の引き金にもなります。過給エンジンでタールの被害が大きくなりやすい理由です。
したがって設計の基本は三つです。第一に、タールを取り除く装置に届くまで、ガスを露点より高い温度に保つこと。第二に、タール除去装置を通したあとの露点を、その先の最低温度より確実に下げること。タールの総量を減らすだけでなく、重いタールを狙って取り除く必要があります。第三に、ガスの通り道の「最低温度の場所」を、エンジンではなく除去装置の側に置くことです。ガスを周囲の温度近くまで冷やしたところで最終フィルターと容量の大きいタンクを通してタールを落とし、そこから先のエンジンまでの配管を周囲より少し高い温度に保温しておけば、吸気管の中で露点を下回ることはなくなります。
おわりに ― 次回へ
タールは、生まれた温度で顔ぶれが変わります。そして露点を決めるのは、タールの総量ではなく、ごく微量の重い成分です。この二つを押さえると、タール対策の見方が変わります。タールを発生させにくい炉を作るのか、出てきたタールを確実に取り除く装置を作るのか、その両方を組み合わせるのか。次回は、ガス化炉の形式ごとに異なるタール対策の考え方を整理し、それぞれの得手不得手を解説します。
参考文献
- Milne, T.A., Evans, R.J. & Abatzoglou, N., “Biomass Gasifier ‘Tars’: Their Nature, Formation, and Conversion”, NREL/TP-570-25357, National Renewable Energy Laboratory (1998)
- Van Paasen, S.V.B. & Kiel, J.H.A., “Tar formation in a fluidised-bed gasifier”, ECN-C--04-013 (2004);ECN タール露点計算サイト Thersites
- FAO, “Wood gas as engine fuel”, FAO Forestry Paper 72, Food and Agriculture Organization of the United Nations, Rome (1986)
監修者プロフィール
香月正司 大阪大学名誉教授(燃焼工学)。燃焼・熱工学の研究者として大阪大学で長く教鞭をとり、現在はバイオマスのガス化・燃焼やガスエンジンの実務課題についてPEO技術士事務所に助言している。本シリーズの監修を担当。
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