【第4回】ガス化炉の中で何が起きているか ― タールはなぜ生まれるのか(バイオマスガス化とタールの科学 その1)

ガス化炉の中で何が起きているか ― タールはなぜ生まれるのか(バイオマスガス化とタールの科学 その1)

執筆:笹内謙一(PEO技術士事務所) 監修:香月正司(大阪大学名誉教授)

目次

はじめに ― ガス化発電に共通する「タール」という壁

木質バイオマスのガス化発電は、木を燃やして蒸気を作るのではなく、木から燃えるガスを取り出し、そのガスでエンジンを回して発電する方式です。小規模でも発電効率が比較的高く、排熱も使えるため、国内でも多く導入されています。一方で、炉の形式やメーカーを問わず、現場で最も多く聞かれるトラブルが「タール」です。配管やガス冷却器の詰まり、エンジン吸気系への付着、ガス洗浄水の処理など、現れ方はさまざまですが、根はひとつです。本シリーズでは、このタールを軸に、ガス化炉の中で何が起きているのかを、熱分解を初めて学ぶ方にも分かるように解説していきます。
第1回は「タールはなぜ生まれるのか」です。

木は「ほとんどが揮発分」です

出発点は木そのものの性質にあります。乾いたスギチップを分析すると、揮発分がおよそ84%、固定炭素が15%、灰分が1%程度です(図1)。揮発分とは加熱すると気体になって出ていく成分、固定炭素とは加熱しても固体の炭として残る炭素分のことです。つまり木は、加熱すれば8割以上がガスや蒸気になって出ていき、残る固体は2割に満たない炭(チャー)と微量の灰だけなのです。

図1 木チップの組成 ― 揮発分と固定炭素、加熱後に何が残るか(重量%)
図1 木チップの組成 ― 揮発分と固定炭素、加熱後に何が残るか(重量%)

身近な例が、薪と炭の違いです。キャンプファイヤーの薪は、もうもうと煙を上げ、その煙は目にしみます。ところがバーベキューで使う炭は、目も痛くならず、そもそも煙がほとんど出ません。煙が出るとすれば食材からです。炭は、木から揮発分がすべて飛んでしまった残り、つまり固定炭素と灰だからです。薪の煙に含まれ、目を刺すもの。それがこれから述べるタールの正体です。

試験管に木片を入れ、空気を遮断したまま加熱する実験を思い浮かべてください(図2)。木は燃えることなく白い煙を上げ、試験管の口から出る気体に火をつけると燃えます。このように空気を断って加熱し、物質を分解させることを乾留、または熱分解と呼びます。これがガス化の原点です。空気を少量入れて木の一部を燃やし、その熱で残りを熱分解させる方式を直接ガス化、空気を入れずに外から熱を与える方式を間接ガス化と呼びますが、木が熱で分解してガスになるという本質は変わりません。直接ガス化を一言でいえば、木を燃やし切らずに燃焼を途中で止め、その途中でできる燃えるガスを取り出すことです。

図2 試験管で見るガス化の原点 ― 木を加熱すると「白い煙」と可燃性ガスが出る
図2 試験管で見るガス化の原点 ― 木を加熱すると「白い煙」と可燃性ガスが出る

タールとは何か

試験管の口から出る「白い煙」の正体がタールです。木の主成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンは、およそ250〜500℃で熱分解し、酢酸のような酸やフェノール類など、数百種類におよぶ有機物の蒸気を放出します。これらは炉の中の高温では気体ですが、冷えると液体に戻り(凝縮)、粘り気のある褐色の液体や固着物になります。ガス化の分野では、タールを「ベンゼンより大きな分子の有機物の総称」と定義するのが一般的です。何百種類もの物質の混合物を一括りにした呼び名であって、ひとつの化学物質を指すものではありません。

タールは「中間生成物」です

図3は、木質バイオマスの熱分解を単純化したモデルです。木は初期の熱分解によって、ガス、タール、水蒸気、そしてチャーへと分かれます。ここで生まれたタールは、続く高温での反応によって二つの運命をたどります。ひとつは、より小さな分子に分解されて一酸化炭素や水素などの燃えるガスになる道、もうひとつは、分子どうしがくっついて大きくなり(重合し)、チャーやコークス状の固形物に変わる道です。つまりタールは、ガス化の副産物ではなく、木がガスに変わる中で必ず通過する中間生成物なのです。タールが生まれる根本の理由は、木そのものが炭素だけでなく水素と酸素を含んでいることにあります。木を加熱する以上タール蒸気の発生は避けられず、問題はそれを炉の中で分解しきれるかどうかに尽きます。

図3 木質バイオマスの熱分解モデル ― タールは途中で必ず通る「中間生成物」
図3 木質バイオマスの熱分解モデル ― タールは途中で必ず通る「中間生成物」

なお、図3は木の成分が何に変わるかを追った図です。実際に炉から出てくるガスは、これらの燃える成分だけではありません。空気でガス化する場合は、空気に由来する窒素がおよそ半分を占め、二酸化炭素や水蒸気も混じります。ガス化ガスの発熱量が天然ガスに比べてずっと低いのは、この燃えない成分が多いからです。

実際の木チップに大きさがあることも見逃せません。チップの表面が炭になっていても、内部はまだ温度が低く分解の途中にあり、タール蒸気はそこから出続けます。大きなチップや湿ったチップでタールが出やすい一因は、この温度の遅れ、すなわち温度ムラの発生にあります。

炉の中の四つの層

木チップを炉に積み上げ、上から順に下へ送る固定床ガス化炉を例に、炉の中の様子を見てみましょう(図4)。上から入った木チップは、予熱・乾燥層(〜350℃)で水分を失い、乾留層(350〜800℃)で熱分解してガスとタール蒸気、チャーに分かれます。空気が吹き込まれる酸化層(1,000〜1,200℃)ではチャーの一部が燃えて炉全体の熱源となり、還元層(800〜1,000℃)では赤く熱したチャーが二酸化炭素や水蒸気と反応して一酸化炭素や水素を生み出します。この最後の反応がガス化の本体ですが、タールが生まれるのは、その手前の乾留層です。

図4 固定床ガス化炉の層構造と、ガスの通り道によるタール量の違い
図4 固定床ガス化炉の層構造と、ガスの通り道によるタール量の違い

ただし、この四つの層の絵は、炉の中の流れを一方向に理想化した模式図で、図の温度も目安にすぎません。実際の炉の中では乾留・酸化・還元が同時に並行して進むので、層はきれいな平面にはならず温度ムラが生じてしまいます。

タールが「残る」か「消える」かを決めるもの

鍵は、乾留層で生まれたタール蒸気が、その後どのような温度と環境を通って炉を出ていくかにあります。図4の左のように、発生したガスが低温の炉上部からそのまま抜ける形式では、タールは分解の機会を得ないまま炉の外へ出ていきます。右のように、ガスを高温の酸化層と赤熱したチャー層に通してから取り出す形式では、タールの多くが炉の中で分解されます。同じ木、同じ空気を使っても、ガスの通り道が違うだけでタール濃度は大きく変わり得るのです。

したがって後者の形式では、均一で高温の酸化層と還元層を保つことが運転の要になります。層にムラや吹き抜けがあれば、そこを通ったタール蒸気は分解されずに出ていきます。空気を何か所にも分けて入れたり、炉の中をかき回したりすると、平らな酸化層が崩れてタールが増える一因になります。空気を増やしすぎて局所的に炎が立つような燃え方になっても、チャーやタールが出やすくなります。ガス化に向くのは、ムラのない、比較的穏やかな燃え方です。

水分の多い原料を入れると、水を蒸発させるのに熱を奪われて酸化層と還元層の温度が下がり、乾留層で生まれたタールが分解されないまま残ってしまいます。小型のダウンドラフト炉が乾いた原料(含水率10%程度以下)を求めるのはこのためで、水分管理がタール対策の第一歩とされる理由もここにあります。

おわりに ― 次回へ

ガスエンジンのメーカーは、燃料ガスに天然ガス並みの「タールなし」を求めます。炉の中で分解しきれなかったタールは炉の外で取り除くほかなく、それがガス精製設備の役割です。しかし、どのようなタールがどれだけ出るかを知らなければ、精製設備は設計できません。次回は、タールを生まれる温度と過程で分類する考え方と、タールを扱ううえで最も重要な指標である「露点」(タールが液体になり始める温度)について解説します。
第5回「タールを分類する ― 一次・二次・三次タールと露点」を公開しました

参考文献

  • Milne, T.A., Evans, R.J. & Abatzoglou, N., “Biomass Gasifier ‘Tars’: Their Nature, Formation, and Conversion”, NREL/TP-570-25357, National Renewable Energy Laboratory (1998)
  • CEN/TS 15439:2006, “Biomass gasification – Tar and particles in product gases – Sampling and analysis”, European Committee for Standardization (2006)
  • 岡田卓哉, 奥村幸彦, 岡崎健, “木質系,草本系バイオマスの熱分解におけるガス種別放出特性”, 日本エネルギー学会誌, 88(4), 301–309 (2009)
  • Di Blasi, C., “Modeling chemical and physical processes of wood and biomass pyrolysis”, Progress in Energy and Combustion Science, 34(1), 47–90 (2008)
  • Di Blasi, C., “Heat, momentum and mass transfer through a shrinking biomass particle exposed to thermal radiation”, Chemical Engineering Science, 51(7), 1121–1132 (1996)
  • 笹内謙一, “熱分解ガス化によるバイオマス発電設備/コージェネレーションシステムの設計と高効率化のポイント”, 技術情報センターセミナー資料(図4の出典)

監修者プロフィール

香月正司 大阪大学名誉教授(燃焼工学)。燃焼・熱工学の研究者として大阪大学で長く教鞭をとり、現在はバイオマスのガス化・燃焼やガスエンジンの実務課題についてPEO技術士事務所に助言している。本シリーズの監修を担当。

ガス化発電設備のタールトラブルや、設計・運転上の課題について、設備を販売しない第三者の立場からの助言が必要な場合は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。技術士法第45条により、いただいた情報は秘密保持契約の有無にかかわらず保護されます。

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この記事を書いた人

笹内 謙一のアバター 笹内 謙一 代表取締役 / 技術士(総合技術監理・衛生工学部門)

株式会社PEO技術士事務所 代表取締役。技術士(総合技術監理/衛生工学部門)、技術士登録番号87790号。大手プラントエンジニアリング会社を経て、2019年に当事務所の代表取締役に就任。バイオマス発電・ガス化発電の技術評価、燃料乾燥装置の開発、事業性評価を専門とし、設備を販売しない中立の立場で発注者側の技術支援を行っています。経済産業省「令和6年度新エネルギー等の保安規制高度化事業(バイオマス発電設備の事故防止のための調査)」では、固体バイオマス燃料の燃焼・火災・爆発の原理と事故の類型化を扱う章を執筆。NEDO「バイオマス技術導入ガイドブック」、日本木質バイオマスエネルギー協会「バイオマスボイラー導入マニュアル」の作成にも関与。木質チップ乾燥装置 Dried Sieve®(特許第7875570号)の発明者。バイオマスガス化発電の係争案件では、裁判所選任の技術鑑定人を務めています。

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