ドイツの木質バイオマスガス化CHP(熱電併給)設備メーカー Spanner Re² GmbH の日本法人である Spanner株式会社(東京都港区)が、2026年7月1日、東京地方裁判所より破産手続開始決定を受けました。国内には同社製設備が87台導入されており、影響は特定の一社にとどまりません。
当方では、このうち6案件で実機を現地視察しています。2014年12月に福島県郡山市の日本1号機を訪問して以来、12年にわたり同社製設備を追跡してきました。機器販売を行わない第三者の立場から、公開情報と自らの現地確認に基づき、現時点で確認できる事実と、設備所有者が優先すべき対応を整理します。

1.官報で確定している事実
2026年7月13日付の官報第1746号(14頁)に、Spanner株式会社の破産手続開始が公告されました。公告により確定している主な事項は次のとおりです。
| 破産手続開始決定 | 2026年7月1日 午後5時 |
| 管轄裁判所 | 東京地方裁判所 民事第20部(倒産部) |
| 事件番号 | 令和8年(フ)第4727号 |
| 破産債権届出期限 | 2026年7月29日(経過済み) |
| 財産状況報告集会等 | 2026年10月1日 午前10時 |
| 事業停止日 | 2026年6月23日(同社告知) |
| 負債総額・債権者数 | 官報には記載なし(未確認) |
なお「破産手続開始決定日」と「申立日」は別の日付です。公開情報で確認できるのは7月1日の開始決定までであり、同日を申立日として扱うことはできません。負債総額、債権者数、直近の財務状況は、いずれも公開情報からは確認できていません。
債権届出期限(2026年7月29日)は既に経過していますが、一般調査期日は10月1日です。届出が済んでいない債権者の方は、破産管財人または東京地方裁判所へ現状をご確認ください。取扱いは契約内容や遅延理由により異なるため、本記事では法的な結論を述べません。
2.ドイツ本社は事業を継続している
本件を判断するうえで重要なのは、破産したのが日本法人であり、製造元であるドイツ本社 Spanner Re² GmbH は事業を継続しているという点です。
同社は2026年7月27日にアジア向け2MW木質ガス化案件の受注(日本向けではない模様)を公表し、8月4日にも公式サイトを更新しています。またサービス・スペアパーツの窓口を現在も維持しており、日本の大型案件を自社実績として掲載しています。日本法人も破産の告知に際し、今後の部品購入・サポートはドイツ本社へ直接問い合わせるよう案内しています。
これは、技術・部品供給が完全に途絶するリスクを緩和する最も重要な要因です。
ただし「今後サービスを受けられること」と「これまでの保証債務を回収できること」は別問題です。日本法人との契約に保証期間・性能保証・無償部品交換等が定められていた場合、ドイツ本社がこれを法的に引き受ける保証はありません。日本法人の告知は問い合わせ先を示すにとどまり、既存債務の引受を明記したものではありません。ドイツ本社との新たなサービス関係と、日本法人に対する破産債権は、分けて管理する必要があります。
3.国内には87台が導入されている
同社が公表していた2023年5月時点の国内実績75台に、2024年12月に稼働した神石高原バイオマス発電所の12基を加えると、国内導入実績は87台となります。影響は単一案件ではなく、複数の地域に分散しています。
内訳は、49〜66kW級のモジュールを多数並列させる大型3案件(合計80基)と、45kW級の小型分散案件7ヶ所(各1台)に整理できます。当事務所は、このうち6案件について現地を訪問し実機を直接確認しており、視察したもは台数ベースで69台/87台(約79%)にあたります。
| 案件 | 規模・構成 | 確認状況 |
| 安曇野バイオマスエネルギーセンター(長野県) | 1,960kW/49kW機×40台 | 現地確認済 |
| 日奈久バイオマス(熊本県) | 1,750kW/28基 | 現地確認済 |
| 神石高原バイオマス発電所(広島県) | 790kW/12基 | 2024年12月稼働 |
| 臼杵エネルギー(大分県) | 45kW×1台 | 現地確認済 |
| 錦江町田代支所(鹿児島県) | 45kW×1台 | 現地確認済 |
| 隠岐グリーンパワー発電所(島根県隠岐の島町) | 1基 | 現地確認済 |
| 江湖村(福島県郡山市湖南町/日本1号機) | 45kW×1台 | 現地確認済(2014年12月) |
| その他 | ウッドビレジ川場(群馬県)、矢祭技術センター(福島県)、コマツ茨城工場 |
最初の視察は、2014年12月の江湖村(福島県郡山市湖南町)です。同社の日本法人が設立された2014年9月から3ヶ月後にあたり、当事務所は日本1号機の導入直後から現在に至るまで、同社製設備の国内展開を継続して追跡してきました。
留意すべき点として、大型3案件の単機出力は導入年次順に安曇野49kW(2018〜2019年)、日奈久62.5kW(2021年)、神石高原65.8kW(2024年)と推移しています。世代の異なる案件間ではガス化炉・エンジン等の主要部品に互換性がない可能性があり、国内での部品融通や共同調達を検討する際は、世代の一致確認が前提となります。
一方、破産時点の日本法人の従業員数は公的データ上4名でした。87台を4名で担当していた計算になり、国内のサポート体制はもともと薄かったという事実は、設備所有者にとって直視すべき前提です。
4.設備所有者がまず着手すべきこと
最も現実的なリスクは、既設設備が直ちに停止することではなく、故障が起きた際の復旧時間が長期化することです。設備は所有者が保有・運営しており、日本法人の破産だけで物理的な設備が消滅するわけではありません。
まず、日本法人との既存契約を次の4つに分解して棚卸しすることが有効です。
- 開始決定前に発生した金銭請求(返金・損害賠償等)── 破産管財人・東京地裁で債権届出の取扱いを確認する
- 既設設備の今後の保守・部品 ── ドイツ本社と直接のサービス体制を構築する
- 納入途中の設備・自社所有物 ── 所有権、危険負担、引渡状況を契約ごとに確認する
- 保証・性能保証 ── 日本法人への破産債権と、ドイツ本社の任意対応とを分離して管理する
そのうえで、技術資産の確保を急いでください。ドイツ本社がサービスを継続している今が好機です。
- 主要予備品リストと安全在庫の把握
- PLC/HMIのバックアップ、制御ソフトおよびパスワード
- P&ID・回路図・部品表・技術資料
- メンテナンス履歴、故障コード一覧
- 遠隔監視の権限
- 国内で代替調達が可能な部品の洗い出し
目安として、主要消耗部品の在庫が3〜6ヶ月分を切る場合は、代替保守業者または国内エンジニアリング会社の確保を優先すべき段階と考えられます。
またFIT認定案件では、メーカーの破産そのものが認定を失効させるわけではありませんが、資源エネルギー庁の事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)は認定事業者に適切な保守点検・維持管理を求めています。維持管理義務は発電事業者側にあるため、メーカー不在を理由に保守を中断すれば、事業者側のコンプライアンス問題となり得ます。
5.見落とされやすい論点──遠隔監視データの保全
実務上、最も見落とされやすいのが遠隔監視インフラの帰属です。
一部の設備では、運転状況の監視ページが破産法人自身のドメイン上に置かれています。同ドメインには会社概要や実績一覧も掲載されており、現時点では維持されていますが、清算手続の進行に伴いドメイン更新やサーバ費用の支払いが停止されれば、これらは予告なく一斉に失われます。
遠隔監視が破産法人のサーバを経由している場合、設備所有者は次を同時に失う可能性があります。
- 運転データの取得手段(出力・累計発電量・アラーム履歴)
- 過去の運転履歴・トレンドデータ(FIT報告や設備診断の根拠資料となり得る)
- 遠隔監視に基づく予兆保全の機会
- 債権届出や契約関係の立証に用い得る公開記録
対応は3点です。①自社設備の監視データがどのサーバを経由しているかを直ちに確認する、②経由している場合はローカル取得手段(現地HMIからのデータ吸出し、独自計測系の追加)へ速やかに移行する、③過去の運転履歴データを可能な限り早期にダウンロードして保全する。
あわせて、同社サイト上の告知・会社概要・実績ページについても、消失前にPDF等で保存しておくことをお勧めします。
6.「メーカーが破産したから設備も駄目」ではない
小型木質ガス化発電は、燃料チップに低水分・均一形状・一定のかさ密度を要求します。スギ・ヒノキ主体の日本産チップは欧州製ダウンドラフト炉の要求に適合しにくく、低温部でのタール生成や閉塞を招きやすいことが、業界で広く指摘されてきました。
ただし、これをもって同社製設備が日本で稼働し得ないと結論づけることはできません。2016年導入の群馬県川場村の案件については、稼働率が90%を超えているとの情報を得ています(森林総合研究所関係者から聴取であり、当事務所による確認ではありません)。仮にこの水準が事実であれば、小規模木質ガス化CHPとしてきわめて良好な実績です。川場村は村有林を基盤とし、燃料調達から利用までを地域内で完結させる体制を持っています。
ここから言えるのは、燃料品質の問題は普遍的な技術的欠陥ではなく、燃料側の管理体制に依存する変数だということです。
本件の評価にあたっては、技術リスクと法人信用リスクを厳格に分離すべきです。「メーカーが破産したから設備も駄目だ」という短絡は、稼働中の優良資産を不必要に毀損させます。逆に「設備が良好に動いているから問題ない」という楽観も、部品供給が細れば数年内に成立しなくなります。両者を独立に評価し、それぞれに対応策を用意することが求められます。
7.同時期に起きたもう一件──島根県隠岐の島町の例
本件を単独の事象として捉えるべきではありません。Spannerの競合であるWegscheidEntrenco株式会社(旧 Arensis Japan)も2026年6月17日に東京地裁で破産手続開始決定を受けており、そのドイツ親会社も同年4月30日に破産しています。2週間の間に、日本の小型木質ガス化CHP市場で主要2社の日本法人が連続して破綻したことになります。
この帰結を最も鮮明に示すのが島根県隠岐の島町です。同町には性格の異なる2つの小規模木質ガス化発電所が併存しており、当事務所は両施設とも現地で実機を確認しています。
| 項目 | 隠岐グリーンパワー発電所 | 下西発電所 |
| 設備 | Spanner機 1基 | ENTRENCO機 3基(50kW×3) |
| 燃料 | 木質チップ | 町内産ペレット(約1,080t/年) |
| 稼働開始 | 2016年夏 | 2024年11月 |
| 日本法人の破産 | 2026年7月1日 | 2026年6月17日 |
| 製造元の状況 | 独本社は健全・部品窓口を継続 | 独親会社も2026年4月30日に破産 |
| 供給継続性 | 中 | 低〜極低 |
メーカー日本法人の破産という同一の事象であっても、製造元本社が存続しているか否かによって、設備所有者が置かれる状況は根本的に異なります。前者には受け皿がありますが、後者には日独いずれにも受け皿がありません。しかも下西発電所は2024年11月の運転開始から約1年半で、投資回収も緒についたばかりの段階です。加えて隠岐諸島は本土と系統連系のない離島であり、技術者派遣・部品輸送に時間と費用を要します。
したがって、設備所有者への助言における第一の分岐点は「製造元本社が存続しているか否か」です。本社も消滅している案件、とりわけ離島立地の案件では、部品在庫の棚卸し、制御ソフトおよび技術図書の確保、国内代替部品への読み替え可能性の検討を、他のいかなる案件よりも優先する必要があります。
8.新規案件の機種選定への示唆
2024年から2026年にかけての一連の破綻を踏まえると、新規案件の機種選定では、カタログ上の発電効率よりも「燃料仕様に対する許容度」を第一軸に置くべきです。実際に調達可能なチップ(含水率・形状分布・樹皮混入率・かさ密度)で連続運転できるかの実証データを重視し、可能であれば当該燃料での実機連続運転試験を契約条件に組み込むことをお勧めします。
またベンダーデューデリジェンスでは、国内代理店の信用のみに依拠せず、製造元とのDirect Agreement、親会社保証、長期スペアパーツ契約、技術図書・ソフトウェアのエスクロー、step-in権、国内第三者によるO&M代替可能性を、融資条件・EPC契約条件へ組み込むことが有効です。
9.次の情報更新点
次の正式な節目は2026年10月1日午前10時に予定されている財産状況報告集会です。負債、資産の換価、配当可能性、未成案件、親子会社間取引について新しい情報が出る可能性があります。当事務所では引き続き情報を収集し、重要な進展があれば本欄で続報を掲載します。
Spanner製設備をお使いの方へ
本記事は、当事務所が作成した調査報告書の要旨をもとに、公開情報の範囲で再構成したものです。個別案件の状況によって、優先すべき対応の順序は大きく変わります。
- 自社設備の予備品・技術資産の棚卸しをどこから始めるべきか
- ドイツ本社と結ぶべきサービス契約の範囲と条件
- 遠隔監視データの保全手順と、ローカル取得系への移行方法
- 代替O&M体制の構築、および他機種への更新可否の評価
- 破産手続に関する事実関係の詳細(本記事に記載していない事項を含む)
こうしたご相談について、当事務所は機器販売を一切行わない第三者の立場から対応いたします。ご相談内容は技術士法第45条の守秘義務の対象となります。
より詳しい情報(当社詳細報告書の開示)や個別のご相談をご希望の方は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
本記事は2026年8月14日時点で確認できた公開情報および当事務所の現地確認に基づくものであり、記載内容の完全性・最新性を保証するものではありません。破産の原因を示す一次情報は得られておらず、本記事は特定の原因を断定するものではありません。また本記事は法的助言を目的とするものではなく、個別の権利関係については弁護士等の専門家にご相談ください。
主要出典:官報 2026年7月13日 第1746号14頁/東京地方裁判所 民事第20部/経済産業省 GビズINFO/Spanner Re² GmbH 公式サイト/資源エネルギー庁 事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)/当事務所による現地視察調査(7施設・2014年〜)。掲載写真は当方が撮影したものです。無断転載を禁じます。

