【第6回】タールとどう付き合うか ― 炉の中で分解するか、炉の外で取り除くか(バイオマスガス化とタールの科学 その3)

タールとどう付き合うか ― 炉の中で分解するか、炉の外で取り除くか(バイオマスガス化とタールの科学 その3)

執筆:笹内謙一(PEO技術士事務所) 監修:香月正司(大阪大学名誉教授)

目次

はじめに ― タール対策の二つの道

前回は、タールは生まれた温度で顔ぶれが変わること、そしてタールが設備を詰まらせるかどうかを決めるのは総量ではなく微量の重いタールであり、その物差しが「露点」であることをお話ししました。今回は対策です。タール対策の考え方は、突き詰めると二つしかありません。ひとつは、炉の中でタールを分解してしまい、そもそも炉の外に出さないこと。もうひとつは、炉の外に出てきたタールを、エンジンに届く前に取り除くことです。前者を一次対策、後者を二次対策と呼びます(図1)。木を加熱する以上タール蒸気の発生そのものは避けられませんから、実際の設備はこの二つの組み合わせによって成り立っています。問題は、どちらにどれだけ頼るかです。

図1 タール対策の二つの道 ― 一次対策(炉の中で分解する)と二次対策(炉の外で取り除く)
図1 タール対策の二つの道 ― 一次対策(炉の中で分解する)と二次対策(炉の外で取り除く)

炉の中で分解する ― 鍵は「時間」と「温度」、そして「混ぜ方」

一次対策の原理は単純です。乾留層で生まれたタール蒸気を、十分に高い温度の場所に、十分に長い時間とどめて分解することです。ガス化炉でも燃焼炉でも、化学反応の速度を支配するのは「時間」と「温度」であり、この二つがそろう適切な場を作り出すのが空気と燃料の「混ぜ方」です。炉を大きくすれば寸法や流量は変わりますが、分解反応に必要な時間と温度は変わりません。

固定床炉でこの場をつくるのが、第1回で見た高温の酸化層と、その先の赤熱したチャー層です。空気を炉の下部側方から入れるダウンドラフト形式では、それより上部で生まれたタール蒸気はガスの流れに乗って下の高温の酸化層を通り、そこで酸化・分解されます。ダウンドラフト型のタールが少ない理由はここにあります。

ただし、この仕組みは酸化層が炉の断面いっぱいに平らに、しかも高温で保たれているときにだけ働きます。酸化層は、火が上の未燃の層へ燃え移ろうとする速さ(火移り速度)と、上から燃料が降りてくる速さがつり合った位置にとどまります。このつり合いが崩れて温度ムラや吹き抜けができると、そこを通ったタール蒸気は分解されないまま炉を出ていきます。空気を何か所にも分けて入れたり炉内をかき回したりすると平らな酸化層ができにくくなることは、第1回でも触れました。そして炉の断面が大きくなるほど、断面全体で一様に同じ反応を起こすことは難しくなります。小型炉で成り立っていた一次対策が、大型化した途端に効きにくくなることがあるのはこのためです(図2)。

図2 平らな酸化層がとどまる条件と、崩れたときに起きること(固定床炉の模式図)
図2 平らな酸化層がとどまる条件と、崩れたときに起きること(固定床炉の模式図)

平らな酸化層を壊すもうひとつの要因が、燃料の粒度です。ダウンドラフト炉は、とても細かいチップを嫌います。欧州のメーカーが示すチップ仕様に共通するのは、乾いていることと、粒度が一定の範囲にあること、特に細かいものが混じらないことです。細かいチップや粉が多いと、まずチップの隙間が埋まって空気の通り道が塞がれ、空気は通りやすい場所に偏って流れます。断面全体に均一に空気を配るという、平らな酸化層つくりの前提が崩れるのです。次に、細かい粒は比表面積が大きいため乾燥も熱分解も早く進みます。実際の炉では燃料の投入口などから炉の上部に少量の空気が漏れ込んでいますから、細かい粒はこの空気と反応して、炉の上のほうでガス化やタール蒸気の発生が始まってしまいます。すると、熱が本来の位置より上方で使われ、炉上部の温度が上がる一方で、タールを分解するはずの下部の酸化層と還元層の温度が下がります。乾留層で生まれたタール蒸気は、温度の下がった層を通り抜けて、分解されないまま炉を出ていきます。細粉の害はもうひとつあります。漏れ込んだ空気で局所的に温度が上がった場所のすぐ隣には、まだ温度の低い場所があります。乾留層の上のほうでは、生まれたばかりのタール蒸気がそうした冷たいチップの表面や炉壁で凝縮します。そこに細粉が付くと、タールが糊の役目をして粉とチップを固め、それが成長して炉の断面をふさぐ「ブリッジ」になります。ブリッジができると燃料が下に降りてこなくなり、その下に空洞ができて酸化層が崩れ、運転が続けられなくなります(図3)。実際にトラブルを起こした小型ダウンドラフト炉のチップサイロから試料を採ってふるい分けてみると、粒度分布がチップメーカーの仕様から明らかに外れ、細かい側に寄っていた例があります(図4)。仕様では4〜8mmの粒は1割以下、4mm未満はほとんど含まないことになっていますが、試料では4〜8mmが2〜7割を占め、4mm未満も1割を超える場所がありました。厄介なことに、スギのチップは乾燥するほど粉化しやすく、含水率を下げようと乾燥を進めるほど細粉が増えるという、水分管理との板挟みが起こります。対策は、トロンメル式や振動式のふるい分け機で、炉に入れる前に細粉を取り除くことですが、取り除いた分だけ燃料の歩留りは下がります。乾いたチップと、粒度のそろったチップ。この二つは、炉の外で行う燃料側の一次対策といえます。

図3 細かいチップや粉が多いとき、炉の中で起きること(固定床炉の模式図)
図3 細かいチップや粉が多いとき、炉の中で起きること(固定床炉の模式図)
図4 トラブルを起こした小型ダウンドラフト炉のチップ粒度分布とメーカー仕様の例(チップサイロ内5か所の試料、ふるい分け試験)
図4 トラブルを起こした小型ダウンドラフト炉のチップ粒度分布とメーカー仕様の例(チップサイロ内5か所の試料、ふるい分け試験)

微粉と並んで炉内の均一性を乱すのが、クリンカです。クリンカとは、灰が高温で溶けて再び固まった塊のことです。木の灰にはカリウムなどのアルカリ分が含まれ、その割合が多いほど灰は低い温度で溶け始めます。日本のスギやヒノキのチップは灰の中のカリウム分が多く、酸化層の温度で灰が溶けてチャーや砂粒を巻き込み、塊に成長することがあります。なお、樹皮は灰分こそ多いものの、その灰はカルシウムが主でカリウムは少なく、溶けにくい灰です。灰の量よりも灰の中身が問題なのです。塊が酸化層や火格子の上にできると、そこは空気もガスも通らなくなり、空気は塊を避けて偏って流れます。細粉が隙間を埋めるのと同じように、平らな酸化層の前提が崩れて温度ムラが生じ、タールが分解されずに残るのです。さらに塊ができれば燃料が下降するのを妨げ、灰自身の排出も止めてしまうので、成長すれば運転停止に至ります。国内の小規模ガス化発電の稼働率を下げている原因のひとつが、このクリンカによる頻繁な停止です。対策は、カリウム分の少ない燃料を選ぶこと、空気を入れすぎて局所的な高温部をつくらないこと、そして灰の溶融温度を上げる添加剤(クリンカ抑制剤)を使うことなどで、これらも燃料側・運転側の一次対策に当たります。

もうひとつ、炉内の温度そのものにも注意が必要です。チップが積み重なった層の中の燃焼温度は、ガスの炎の温度ほど高くはならないと考えられています。層の中では木チップ自身が「介在物」として振る舞い、可燃ガスの燃焼で出た熱の一部がチップの昇温と熱分解に使われるからです。研究用充填層の燃焼実験で層内の温度を測った例では、最高でも700℃台という報告例がありますが、実炉での詳細な測定例は見当たりません。一次対策が期待どおりに働いているかどうかを判断するには、実炉内で測った温度を用いて判断する必要があると思いますが、ここでは通例に従って模式図の温度を用いて話を進めます。

熱分解とガス化を切り離す ― 二段階式ガス化

一次対策を徹底する別の道として、熱分解とガス化を別々の炉で行う二段階式があります(図5)。空気を少量入れる単段の充填層炉では、タールが生まれる乾留の過程と、それを分解する高温の過程を切り離すことができません。二段階式では、一段目の炭化炉(500℃~800℃程度)で木を外から加熱して炭化物(チャー)と熱分解ガス(揮発分)に分け、タールを含む熱分解ガスは炉を加熱する燃料として燃やしてしまいます。こうすれば二段目のガス化炉(1,100℃以上)に入るのは炭化物と過熱水蒸気だけになりますから、ここではタールがガス化反応に関わることはなく、また空気を入れないので生成ガスが窒素で薄まることもなく、水素と一酸化炭素を主体とする発熱量の高いガスが得られます。同じ間接ガス化でも、キルンなどを外から加熱して木を無酸素で熱分解する外熱式では、タールは炉の中では取れないので、炉の後ろに別途タール除去装置が必要です。二段階式は装置の構成が複雑で大きくなり、外部の熱源も要るため、小型のコージェネレーション用には費用対効果の面で採用しにくく、水素や合成ガスの製造に向いた方式といえます。

図5 間接ガス化の二つの方式 ― 外熱式ガス化と二段階式ガス化(筆者のセミナー資料の原理図をもとに作図)
図5 間接ガス化の二つの方式 ― 外熱式ガス化と二段階式ガス化(筆者のセミナー資料の原理図をもとに作図)

炉の外で取り除く ― タールを「移す」だけであることを忘れずに

二次対策は、炉を出たガスを冷やしてタールを凝縮させ、分離して取り除く工程です。ガス冷却器、水で洗うスクラバー、油で洗うオイルスクラバー、フィルター、それにタンクを組み合わせます。第2回の露点の言葉でいえば、二次対策の目的は「除去装置を出たガスの露点を、その先の通り道の最低温度より確実に下げること」です。

大切なことは、装置ごとに除去の得意なタールが違うことです(図6)。水に溶けやすいタール(第2回のクラス2)はスクラバーの水に移りますが、重い多環芳香族(クラス4・5)は水に溶けにくく、油で洗うか、冷やして固着させてから捕集する方法が効果的です。凝縮したタールの細かい霧(ミスト)や微粒子は、流速の遅い場所で分離されるので、途中に容量の大きなタンクやフィルターを置くことが有効です。スクラバーの後にフィルターと容量の大きいタンクを置いた小さな実験装置で、エンジン手前のタールが大幅に減った例が報告されています。逆に、除去装置からエンジンまでが短い配管で直結されていると、取り切れなかったタールがそのままエンジンの給気系に運ばれてしまいます。

図6 炉の外の除去装置と、それぞれが得意なタール(装置の並びは一例)
図6 炉の外の除去装置と、それぞれが得意なタール(装置の並びは一例)

二次対策に用いられる除去装置には、見落としがちな弱点があります。除去装置の役目はタールを「消す」のではなく、ガスから水や油、フィルターへ「移す」だけだということです。水溶性のタールを溶かし込んだスクラバー水は廃水処理が必要になり、重いタールを含む廃油やフィルターの残渣は産業廃棄物になります。炉の中で分解できたタールは燃えるガスに変わって発電に寄与しますが、炉の外で取り除いたタールは、処理費のかかる廃棄物に姿を変えます。一次対策にどれだけ頼るかは、廃水・廃棄物の処理まで含めた設備全体の問題なのです。

炉の形式ごとの得手不得手を露点で整理する

以上を、第2回の分類と露点の考え方で炉の形式ごとに整理したものが表1です。アップドラフト型で発生するタールは、量は多いものの、水に溶けやすく分解されやすい一次タールが主体です。生成したガスを冷やさずにそのままボイラーで燃やす熱利用なら、このタールは燃料の一部として燃えてしまい、問題になりません。しかしガスエンジンの燃料として使う場合には、量が多いだけに湿式洗浄が主役となり、廃水の処理が課題になります。他方、ダウンドラフト型のタールは量こそ大幅に少ないものの、微量でも露点が高く粘着しやすい三次タールが主体です。頼りになるのは炉内の一次対策で、乾いた燃料と平らな酸化層を保つ運転が第一、炉外の二次対策は、冷却器・フィルター・容量の大きいタンクで残った微量の重いタールを取り除き、露点を通り道の最低温度より下げる、という組み合わせになります。流動床型や二段階式は、改質やガス化の場を別途用意する一次対策を組み込んだ形式になり、そのぶん設備は大きく複雑になります。

表1 炉の形式ごとのタールの出方と対策の組み合わせ

表1 炉の形式ごとのタールの出方と対策の組み合わせ

どの形式にも共通するのは、対策の成否を「タールの量」ではなく「除去後の露点」で判断すべきだということです。露点は微量の重いタールで決まりますから、量の少ないガスでも露点で見れば油断できないことがあるのです。

おわりに ― 次回へ

タール対策は、炉の中で分解する一次対策と炉の外で取り除く二次対策の組み合わせであり、どちらにどれだけ頼るかは、炉の形式と、廃水・廃棄物の処理まで含めた設備全体の構成で決まります。これが今回の要点です。ただし、対策が効いているかどうかは、測ってみなければ分かりません。次回は「タールを測る」をテーマに、ガスの通り道のどこで何を測れば炉の状態が分かるのか、メタン濃度のような現場で使える指標も含めて解説します。

参考文献

  • Devi, L., Ptasinski, K. J., Janssen, F. J. J. G., “A review of the primary measures for tar elimination in biomass gasification processes”, Biomass and Bioenergy, 24, 125–140 (2003)
  • Milne, T. A., Evans, R. J., Abatzoglou, N., “Biomass Gasifier ‘Tars’: Their Nature, Formation, and Conversion”, NREL/TP-570-25357 (1998)
  • Hasler, P., Nussbaumer, Th., “Gas cleaning for IC engine applications from fixed bed biomass gasification”, Biomass and Bioenergy, 16, 385–395 (1999)
  • Van Paasen, S. V. B., Kiel, J. H. A., “Tar formation in a fluidised-bed gasifier”, ECN-C--04-013 (2004)
  • 阿部・中原・徳永「木質バイオマスの燃焼に関する研究」第49回燃焼シンポジウム講演論文集 (2011)
  • 小島康夫「木質バイオマスの熱分解ガス化」ウッディエイジ, 2009年9月号
  • ISO 17827-1:2016, Solid biofuels — Determination of particle size distribution for uncompressed fuels — Part 1: Oscillating screen method using sieves with apertures of 3.15 mm and above
  • 笹内謙一「バイオマスからの高濃度水素ガス化の原理と発電用ガス化システムとの違い」技術情報センターセミナー資料 (2024年2月)(図5の出典)/笹内謙一「熱分解ガス化によるバイオマス発電設備/コージェネレーションシステムの設計と高効率化のポイント」技術情報センターセミナー資料(表1の出典)

監修者プロフィール

香月正司 大阪大学名誉教授(燃焼工学)。燃焼・熱工学の研究者として大阪大学で長く教鞭をとり、現在はバイオマスのガス化・燃焼やガスエンジンの実務課題についてPEO技術士事務所に助言している。本シリーズの監修を担当。

ガス化発電設備のタールトラブルや、設計・運転上の課題について、設備を販売しない第三者の立場からの助言が必要な場合は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。技術士法第45条により、いただいた情報は秘密保持契約の有無にかかわらず保護されます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

技術課題のご相談はお気軽に

バイオマス・環境分野の技術士が、構想段階から実装までご支援します。
まずは無料相談からどうぞ。

この記事を書いた人

笹内 謙一のアバター 笹内 謙一 代表取締役 / 技術士(総合技術監理・衛生工学部門)

株式会社PEO技術士事務所 代表取締役。技術士(総合技術監理/衛生工学部門)、技術士登録番号87790号。大手プラントエンジニアリング会社を経て、2019年に当事務所の代表取締役に就任。バイオマス発電・ガス化発電の技術評価、燃料乾燥装置の開発、事業性評価を専門とし、設備を販売しない中立の立場で発注者側の技術支援を行っています。経済産業省「令和6年度新エネルギー等の保安規制高度化事業(バイオマス発電設備の事故防止のための調査)」では、固体バイオマス燃料の燃焼・火災・爆発の原理と事故の類型化を扱う章を執筆。NEDO「バイオマス技術導入ガイドブック」、日本木質バイオマスエネルギー協会「バイオマスボイラー導入マニュアル」の作成にも関与。木質チップ乾燥装置 Dried Sieve®(特許第7875570号)の発明者。バイオマスガス化発電の係争案件では、裁判所選任の技術鑑定人を務めています。

目次