回転ドラム乾燥機の火災は、熱風の温度が高すぎるから起きるのではありません。乾ききった瞬間に、材料を冷やしていた仕組みが消えるから起きます。
そして、その予兆は温度計にも煙感知器にも先んじて、CO(一酸化炭素)濃度に現れうるものです。
本稿では、経済産業省「令和6年度新エネルギー等の保安規制高度化事業(バイオマス発電設備の事故防止のための調査)」において、固体バイオマス燃料の燃焼・火災・爆発の原理を扱う章を執筆した立場から、過乾燥が発火に至る道筋を整理します。設備の新設を検討されている方、既設設備で異常の兆候をつかみかねている方の判断材料になれば幸いです。
1. 回転ドラム乾燥機(キルン乾燥)はどのように乾かすのか
回転ドラム乾燥機は、一般に、わずかに傾けた円筒形のドラムをゆっくり回転させ、木質チップなどの原料と熱風を連続的に接触させる装置です。現場では「ロータリードライヤー」「ドラムドライヤー」のほか、「ロータリーキルン式乾燥機」あるいは「キルン乾燥」と呼ばれることもあります。本稿では、熱風が原料に直接触れる直接加熱式を中心に説明します。
ドラムの内壁には、リフター(フライト)と呼ばれる羽根が取り付けられています。ドラムが回ると、原料はこの羽根ですくい上げられ、上方から熱風中へ落下します。チップが「カーテン」のように広がることで熱風との接触面積が増え、その表面から水分が蒸発します。ドラムの傾斜と回転、ガス流によって、原料は入口から出口へ少しずつ移動します。
熱風と原料が同じ方向へ進む並流式と、反対方向へ進む向流式があります。乾燥後の材料はロータリーバルブや搬送機へ、排気はサイクロンや集じん設備へ送られます。安全な運転は、原料供給、熱風供給、ドラム内の移動、出口排出の釣合いで成り立っています。排出が止まっても熱風が入り続けたり、微粉がリフターの裏などに堆積したりすると、一部の材料だけが長く加熱されます。
乾燥のための「滞留」が、過乾燥と火災につながる「滞留」へ変わるのです。
2. 水がある限り、木質チップは熱風温度まで上がらない
では、この乾燥機が「安全に動いている」状態が、何によって支えられているのかを確認します。
実際のドラム乾燥機では、入口の熱風温度はおおむね250〜400℃になります。木質チップ用ロータリーキルンの公開事例では、熱風250〜350℃で、含水率50%(w.b.)の原料を約20分で15%(w.b.)まで乾燥させています。弊社が扱った設計資料には400℃級の運転例もあります。
いずれも、木材が燃えはじめる温度をはるかに超えた高温です。それでも通常運転で燃えないのは、濡れているチップの温度が、熱風の温度までは上がらないからです。
理由は、打ち水や濡れタオルが涼しいのと同じです。水が蒸発するとき、まわりから熱を奪っていきます。水1kgを蒸発させるには約2,260kJ(100℃)の熱が必要で、この熱はチップ自身から奪われます。
そのためチップ表面の温度は、熱風が何度であっても湿球温度、つまり濡らした温度計が示す温度の付近で止まります。1気圧の空気として概算すると、熱風400℃・絶対湿度0.05kg/kg(乾きガス基準)のとき湿球温度は約65℃。熱風350℃なら約63℃です。
つまり、熱風とチップの間には常時300℃前後の差がついていることになります。この差を作っているのは、水の蒸発だけです。
この状態を恒率乾燥期間と呼びます。乾燥の速さを決めているのはチップの性質ではなく、熱風がどれだけ熱を運んでこられるかです。言い換えれば、チップが濡れている限り、水が冷却材の役目を果たし続けているということです。
この余裕は、排気を循環させるほど小さくなる
ただし、この差は固定ではありません。湿球温度は熱風温度だけでは決まらず、ガス中の水蒸気量に左右されます。同じ熱風350℃でも、絶対湿度が0.05kg/kgなら約63℃、0.10kg/kgなら約68℃まで上がります。排気を循環させて湿分が増えるほど湿球温度は上がり、チップを冷やす余裕は小さくなります。
なお直接加熱式では熱風が燃焼排ガスであるため、実際の設計にあたってはガス組成を含めた再計算が必要です。
高温域では、湿球温度が下限値になる
もうひとつ、300℃を超える高温域では注意が必要です。この領域では熱風からの輻射伝熱の寄与が無視できなくなり、粒子表面の温度が断熱飽和温度(湿球温度)を上回る場合があります。 ここまでに示した60℃台という値は、対流伝熱だけを考えたときの目安、すなわち下限値と理解してください。実際の粒子はこれより高温になり得ます。
裏を返せば、この300℃前後の余裕は、水がある間しか存在しません。
含水率の表記について
本稿の含水率はすべて湿量基準(w.b.)です。全体の重さに対して水が何%か、という数え方です。乾量基準(d.b.)では同じ状態が別の数値になり、例えばw.b. 50%はd.b. 100%になります。海外文献や機器メーカーの仕様書では両方の基準が混在するため、比較の際はどちらの基準かを必ず確認してください。
3. 過乾燥とは何が起きている状態か
チップの中の水が尽きると、状況が変わります。
奥に残った水が表面まで出てくる速さが、蒸発する速さに追いつかなくなります。すると蒸発の勢いが落ちます(減率乾燥期間)。蒸発が減るということは、チップから奪われる熱が減るということです。 冷却が弱まった分だけ、チップの温度は熱風の温度に向かって上がり始めます。
水という歯止めが外れたとき、木材の熱分解が始まる温度域までの距離は、もう長くありません。
ここで、過乾燥という言葉の意味を整理しておきます。
現場では過乾燥を「製品の含水率が目標値を下回ること」、つまり品質の問題として扱うことが少なくありません。しかし、火災の観点から見た過乾燥は違います。冷やす仕組みを失ったチップが、高温の風にさらされ続けている状態を指します。問題は含水率という結果ではなく、そこに至る過程でチップが何度まで上がったかです。
したがって、製品の含水率が目標どおりに出ていても、ドラムの中の一部が過乾燥していれば火災は起こり得ます。出口の含水率計だけを見ていても、この状態は検知できません。
微粉が先に過乾燥する
ドラムの中のチップは、大きさが揃っていません。微粉は、同じ重さでも表面積が大きく、温まるのに必要な熱が少なくて済みます。そのため、同じ時間ドラムの中にいても、微粉だけが先に乾ききります。
さらに微粉には、リフターの裏・ドラムの端・風の流れが淀む場所にたまりやすいという性質があります。先に乾き、かつ長くとどまる。最初の発火点が微粉になるのは、この2つが重なるためです。
危ないのは入口ではなく、出口が止まったとき
設計上の滞留時間は、あくまで平均値です。原料の含水率が急に変わったとき、供給量が落ちたとき、供給が止まったとき。いずれも、チップの一部を想定より長く高温下に置くことになります。
そして実務上、最も優先度が高いのは入口ではなく出口です。
弊社の経験では、原料供給の停止そのものよりも、出口のロータリーバルブやスクリューコンベヤがトリップ、あるいは閉塞するケースのほうが危険です。排出経路を失うと、ドラムと供給を止めても内部に材料が残ります。 そこへ残熱と高温ガスが作用し、局所的な乾燥が続きます。弊社が調査した事例でも、この連鎖が発火の起点になりました。
乾燥機を止めることと、安全な状態にすることは、同じではありません。
4. なぜ最初に出るのがCOなのか
チップの温度が上がっていくと、木材は段階を追って変化します。
まず、100℃を超えたあたりから、成分がゆっくりと酸素と反応しはじめます。この反応そのものが熱を出すため、放熱が追いつかなければ温度はさらに上がります。200℃を超える頃には熱分解が始まり、可燃性のガスが出はじめます。ここまで来ると、炎の見えない燃焼(くん焼)を経て有炎燃焼に至るまで、途中で自然に止まることはほぼありません。
このうち熱分解が始まった直後の段階では、材料の内部まで酸素が行き渡りません。酸素が足りないまま炭素が酸化すると、二酸化炭素ではなく一酸化炭素(CO)が生じます。 炎も煙もなく、排気温度もほとんど動かない時点で、COだけが先に増えはじめるのはこのためです。
つまりCOは「火災が起きた」ことを示す指標ではありません。「火災に向かっている」ことを示す、その手前の指標です。
温度計では間に合わないことがある
弊社が調査した発火事例では、出口側機器が停止したあと、発煙までの時間は短いものでした。しかしこのとき、温度はHH警報に達しておらず、温度を基準とした火災検知は作動していません。連続CO計が設置されていなかったため、発火前のCO濃度がどう立ち上がったかを数値で示すことはできません。この欠測そのものが、温度だけに頼る検知の弱点を示しています。
絶対値ではなく、入口と出口の差を見る
CO濃度は、測るだけでは使えません。熱風発生炉から高い背景COが流入する設備では、出口のCO濃度だけを見ていると、誤報と見落としの両方が起こります。
実務的には、入口と出口に同じ方式のCO計とO2計を設け、酸素濃度0%に換算したうえで、出口と入口の差(ΔCO)の上昇を一次トリガーとするのが確実です。警報値は一律のppmで決めず、正常運転時の負荷ごとのベースラインを実測して設定します。
5. まとめ
- 過乾燥は、品質の問題である前に安全の問題です。製品含水率が目標どおりでも、ドラムの中の一部が乾ききっていれば火災は起こり得ます
- 危険が生まれるのは、水による冷却が失われた瞬間です。熱風温度が高い設備ほど、その後にチップが向かう温度も高くなります
- 先に動きうるのはCOです。温度計と煙感知器は、それより遅れることがあります
- そして止めるべき場所は、入口ではなく出口です。排出が止まった時点で熱源を切れる設計になっているかどうかが分かれ目になります
インターロックの組み方、火花検知・消火装置の設置位置、冷却と貯蔵の設計については、次回の記事で扱います。既設設備の火災リスク評価や事故後の原因究明については、業務内容のページをご覧ください。
設備の火災リスクについて、設備を販売しない第三者の立場からの評価が必要な場合は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。技術士法第45条により、いただいた情報は秘密保持契約の有無にかかわらず保護されます。

