新たにPEO代表 笹内によるバイオマス発電講座を開設しました。今後月1回のペースで更新する予定です。

第1回 小型バイオマスガス化発電について

私が小型バイオマスガス化発電の開発に携わってからもう20年近くになる。当時はバイオマスという言葉すら知らない中、社命で開発リーダを拝命し、以後自分のライフワークになろうとは思いもしなかった1)。その後一部の研究者の間でしか話題にならなかった小型ガス化発電が一躍脚光を浴びることになったのは再生可能エネルギーの固定価格買取制度(通称FIT)である。

特に最近では 発電量2,000kW 未満の小規模バイオマス発電を対象としたガス化発電装置の導入が著しい。

以下に最新の導入状況を示す。

国内における導入箇所は40カ所以上に上り、導入台数はすでに200基を超えている。PEOにも太陽光など新規参入を目指す再エネ事業者からどれを導入すべきかといった問合せが多数ある。しかしその大半は豊富な実績を背景とした欧州など海外技術の輸入であり、欧州と日本のバイオマスの樹種や性状の違いやメーカ提示による燃料規格の曖昧さなどから、欧州の実績が日本では十分に活かせず、安定稼働が実現していない事例が多い.ここでは代表的なガス化発電技術を紹介するとともに日本のバイオマスとのミスマッチの原因を検証し、導入に対する留意点について述べたい。

1. バイオマスのガス化発電とは

木質チップなどの比較的乾燥したバイオマスを蒸し焼きにして得られた乾留ガスでガスエンジンなどの内燃機関を駆動して発電する装置である。けっして新しい技術ではなく、戦前、木炭自動車などで使われていたものと原理的には変わらない。糞尿などをメタン発酵ガス化したバイオガス発電も存在するが、本稿で紹介するのは乾留ガス化発電の方であり、学会などでは前者と区別するために熱分解ガス化発電とも呼ばれている。熱分解ガス化の原理を図2に示す。

外部からの熱で蒸し焼きにされたバイオマスは200℃を超えたあたりから熱分解が始まり、揮発分である炭化水素ガスを発生させながら炭化する。

2. ダウンドラフト式ガス化

木質バイオマスの小型ガス化発電では下図のようなダウンドラフト式(固体―ガス並流移動層方式)が普及している.

ダウンドラフト式は以下の特徴を持つ

長所:

  1. タールが炉内の酸化還元ゾーン(高温帯)で分解されるため、後段に設けるタール除去装置の容量が小さくて済む
  2. ガス化→冷却→除じんという簡単・小規模なプロセスで発電用の熱分解ガスを安価に得ることが可能

短所:

  1. 炉内のガス流れに直交する炉断面内での層の通気性分布を均一にしないと反応帯の制御が困難となり、生成ガス組成が安定しない。しかし燃料の粒度等により上記不均一性は容易に発生する
  2. 炉断面内での通気性の不均一分布により、炉内ガス流速が乱れ、特にガス流速が速くなった箇所では十分な滞留時間が得られなくなり、タールの分解が不十分なガスが生じる
  3. 湿ったチップを使用すると炉内乾燥で生じた水蒸気で酸化ゾーンの温度が下がり、タールが分解できなくなる。
  4. 燃料のサイズや形状を適正に管理しないと、上記ガス流れはもちろん、層の懸垂(ブリッジング 、炉後段配管中の詰まりなどをもたらす⑤上記理由でタールの分解が不十分な場合、タール除去装置の容量を超えるタールが生成し、後段のガスエンジンにダメージを与える。

ダウンドラフト式ガス化炉の短所である移動層の通気性分布の不均一化は燃料のサイズや性状に起因するため、上記短所の克服はほとんどすべて燃料の性状の改善によって実現されることになる。

3. ガス化発電用燃料性状の留意点

熱分解ガスやガス化剤を炉断面内で均一に流すためには以下の点に留意した燃料を選ぶ必要がある.

  1. 燃料サイズを出来る限り均一にする(微粉や大きすぎるものは流れを乱すため不可)
  2. 含水率はガス化炉の許容度によるが出来るだけ低い(概ね10%以下という炉が多い)方が望ましい。
  3. 高温で溶融しやすい灰分の多い樹皮、枝葉は少ないことが望ましい

以上は各メーカのガス化炉でそれぞれ定義されているが、定義が不明確な場合は事前に確認する必要がある.ここを曖昧に済ませると後に問題となるケースが多い。

次回は、実際に日本で稼働している小型バイオマスガス化発電装置について述べたい。

参考文献

1)NEDO実用化ドキュメント 「CO2排出量削減と地域活性化に貢献するバイオマスガス化発電システム」 

(大阪技術振興協会誌 2020年7月号に寄稿したものから転載)